教員時代、視覚支援教材の有効性を見出し国内外での研鑽を積み実践に生かし、「どんな障がいがあろうとどんな子も変わる、成長する」を実感してきました。発達障がいという言葉が一般的に知られるようになる頃には、特別支援学級に席をおく子どもたちにも変化が出てきました。これまでの知識や指導スキルだけではなく、”自分の心と身体を感じる”ということが子どもたちにはもっと必要だと思うようになりました。
自分の心身を感じる最もシンプルな方法は、呼吸でした。
ヨガの呼吸法を1分試すことを習慣にしていくと、子どもたちは自分の今ある状態に気づき、落ち着き、感情のコントロールができるようになっていきました。それは、時間と忍耐を必要とする試みでもありましたが、確信したことがあります。
- 知的にさほど問題がないのに学習に集中できない子どもたちには、学習のレディネスが高まる
- 友だちとのトラブルが絶えない子には、自分と他人との間合いを取り、社会性や協調性を育む素地となる
子どもたちが心身の中に心地よさや風通しの良さを感じられるようになる呼吸は、大人にとってもまた同じであります。子どもたちに関わる大人こそが、「一息つく恩恵は計り知れない」ことを子どもたちと共に享受できる時間があってもよいのではないでしょうか。
時に自己評価が低く、自分は悪い子として存在のアピールをする子どもたちにとって、呼吸に意識を向けることは簡単ではありません。目や耳、あるいは肌で感じる刺激に大変敏感であることも多いので、身近な大人との信頼関係を築くことから時間を要する場合もあります。
しかし、興味を引くことはすぐにできます。
息を止めてみればいいのです。「誰が一番長く息を止めていられるか」という投げかけに、子どもたちはすぐに乗ってきます。
そして、息をしないと苦しいということを実感します。
『息をしなければ生きられない』と『息をすることは生きること』は、幼い子どもたちには同義ではないかもしれませんが、『息をすることが大事なこと』だということは理解できます。
息が弾む、息巻く、肩で息をする、息が詰まる、青色吐息、溜息、鼻息が荒い、虫の息、
息が合う、息が長い、息も絶え絶え、息を引き取る、息を吹き返す、息抜き、休息、、、、
『息』という漢字を含む言葉を一緒に考えていくことも面白いかもしれません。どんな状況かを一緒に考えていくうちに、心や身体の状態だけではなく他者との関係にも及ぶ具体的な場面がきっと子どもたちの中にも浮かぶはずです。
Yoga Educationとして
自律神経や免疫の働きからも呼吸の機能や重要性については広く知られるようになってきましたが、子どもたちと一緒に試してみる、感じて気づきを得ることが最も有効だと思います。
子どもは大人の姿を見ています。どんな大人に出逢うかで人生が左右されると言っても過言ではありません。
他人を変えようとすることは容易ではありません。自分を変えることも簡単ではありません。
ヨガの哲学には、アヒムサ(非暴力)という教えがあります。
誰かを傷つけたり、何かを誰かを変えようとしたりするのではなく、有るものやもっているものを大切にしましょうという教えです。誰もが当たり前に行っていることが命を繋ぐこと、シンプルだけどすごいこと、息をしている(生きている)ことがどれ程価値のあることかに気づいたり、自分の身体を”感じる”、”知る”ということが自分を大切にすることに繋がります。自分を大切にできると他者との関わり合いにおいても想像力を広げることができるようになります。そのような身体教育や実体験できる場を作ることが、子どもたちの成長に及ぼす影響や可能性は大きいと思うのです。
ヨガはポーズをとることだけが目的ではなく、心の内の静寂(sitilness)を保つことが本質であるならば、呼吸だけで十分なのかもしれません。しかしながら、知力・体力・精神力の3つどもえを狙い、ヨガに発達心理学や脳科学および様々な学習理論を併せ持っていくと、子どもたちを惹きつけ健全な心身の育成に貢献できるツールとなり得るのではないでしょうか。
アメリカではすでに学校現場に導入しようという動きが出ているそうですが、
Yoga Education 教育としてのヨガの確立と認知の向上をもって日本でも学校教育にヨガのエッセンスが役に立つ日が来ると信じ活動しています。